「あなたの為に」という言葉
「あなたの為を思って言っているのよ」
そんな言葉を、これまでに何度も聞いてきた人は多いのではないでしょうか。
親から、パートナーから、職場の上司から。心配しているから、あなたに幸せになってほしいから、失敗してほしくないから。
そう言われると、相手の言うことを聞かなければいけないような気持ちになります。反対意見を口にすれば、せっかく心配してくれている相手の気持ちを踏みにじるようで、罪悪感を覚えることもあるでしょう。
一方で、自分自身も「あなたの為に、こんなにしてあげているのに」と思ったことはないでしょうか。
相手のことを考えて助言した。良かれと思って行動した。それなのに、相手が思うように動いてくれない。感謝もしてくれない。
そんなとき、腹立たしさや悲しさを感じることもあると思います。
けれど、ここで少し考えてみてほしいのです。
本当にそれは、相手の為なのでしょうか。
相手の将来が心配だから、自分の勧める道を選んでほしい。苦労してほしくないから、自分の考える正解に従ってほしい。幸せになってほしいから、自分の理想とする生き方をしてほしい。
そこには、相手を思いやる気持ちがあるのかもしれません。
でも同時に、自分が安心したい、自分の考えが正しいと確かめたい、自分の望む姿になってほしいという気持ちが隠れていることもあります。
相手の為だと言いながら、実は相手を自分の思い通りに仕立て上げようとしている。そんなことも、決して珍しくはないのです。
人にはそれぞれ、自分の考えがあります。選びたい道も、幸せだと感じることも違います。たとえ親子であっても、夫婦であっても、別々の人間です。
自分が良いと思うものが、相手にとっても良いとは限りません。
本当に相手を大切に思うのなら、自分の考えを伝えることと、相手にそれを押しつけることは、分けて考える必要があるのではないでしょうか。
助言をすることも、手を差し伸べることも悪いことではありません。ただ、その先で相手が自分とは違う選択をしたとき、それを認められるかどうか。
そこに、相手を尊重しているかどうかが表れるのだと思います。
そして、もしあなたがこれまで「あなたの為を思って」と言われ続け、自分の気持ちを抑えてきたのなら、覚えておいてください。
相手があなたを心配してくれることと、あなたが相手の望みどおりに生きなければならないことは、別の話です。
感謝することと、従うことも同じではありません。
誰かの期待に応えるためだけに、自分の人生を選ばなくてもいいのです。
相手を思いやること。そして、自分の気持ちも大切にすること。
どちらか一方を犠牲にしなくても、人との関係は築いていけます。
「あなたの為に」という言葉を使うときも、誰かからその言葉を向けられたときも、少しだけ立ち止まって考えてみてください。
そこにあるのは、本当に相手を尊重する気持ちなのか。それとも、自分の思いどおりにしたいという気持ちなのか。
その違いに気づくことが、自分も相手も大切にできる関係への第一歩になるのではないでしょうか。
